『イヤー・オブ・ザ・ホース』(ジム・ジャームッシュ)

吉祥寺バウスシアター1にて。公開以来2回目。爆音上映。
薄暗いステージ上に立つ初老の男たちが、白髪混じりの頭をゆらゆらと揺すり、時にはでっぷりと太った身体を激しく前後させて、抱えた楽器をかき鳴らしています。スーパー8で撮影された映像は、たとえ照明が明るくなったとしても彼らの姿を鮮明に映し出すことはありません。その不明瞭で亡霊じみた人影が揺らぎ続ける映像を、彼らの演奏する音楽、大音量で鳴り響きひずんでいて終わりなく続く非=時間を現出させる音響と重ね合わせること、これこそがこのフィルムでジム・ジャームッシュのやりたかったことに違いありません。
「このバンドではひとりひとりの力を超えたものが生まれるんだ」と男は言い、別の男は「死んでしまったメンバーや友人も含めて、全員が渾然一体となって生み出される音楽だ」と語るけれど*1、彼らの音楽だけが持つ特別な力について語ろうとする言葉はどれも表面をなぞるばかりで核心に届くことはありませんし、だからこそ男は「ふたつばかり質問したぐらいで俺たちのことを理解できるわけがない」と、冗談めかしてではありますがいらだちの言葉を口にします。あるいは本当に宇宙人やUFOのたぐいが関係している可能性を、真剣に検討する必要があるのかもしれません。
96年現在のライヴ映像が不意に20年前のステージに接続され、そこからさらに現在時点に帰還するラストの“Like A Hurricane”ももちろんすごいのですが、わたしは1曲目の“F*!#in' Up”からすっかりやられてしまい、そのまま時間を忘れて最後まで呆けたように観続け聴き続けていました。これほど爆音上映にふさわしい映画はありません。
 
帰宅後、ひさしぶりにニール・ヤング&クレイジー・ホースの“Broken Arrow”を聴いています。このアルバムがリリースされた1996年は個人的にとてもつらい時期でしたが、これらの楽曲がわたしを支えてくれたことを、懐かしく思い出します。2曲目の“Loose Change”の後半で延々と続くギターソロは今聴いても鳥肌が立つほどで、音の持続・連鎖がニール・ヤング(とクレイジー・ホース)を限りなく「向こう側」の存在に接近させるさまは壮絶です。

Broken Arrow

Broken Arrow

*1:うろ覚え。