『ファミリー・プロット』(アルフレッド・ヒッチコック)

DVDで。初見。偽霊媒師、偽弁護士、偽の金髪美女、連続誘拐犯でもある偽名の宝石商といった人びとが現れ、偽装された死と偽の墓、偽りの壁に隠された監禁部屋などが登場するこの映画が語るのは、偽者(偽物)をめぐる物語だと言えるかもしれません。そして最後は嘘のようなあっけなさでシャンデリアの石に偽装されたダイヤモンドが(偽物のなかに混ざった「本物」が)発見されます。
霊媒師と偽弁護士(役者志望のタクシー運転手)がガソリンスタンドの男によって危うく殺されかかる山道のシーンは、どことなく『北北西に進路を取れ』のトウモロコシ畑の場面を想起させます。約束の相手を待つあいだの宙吊りの時間も共通していますが、『北北西に進路を取れ』の件の場面が持っている異様さが滑稽さに転化するギリギリのところにあったのと同様に、ブレーキがきかずに崖道を猛スピードで疾走する車のなかで演じられるドタバタは、事態の深刻さとの対照において、これまた乾いた笑いを誘います。
 
垂直軸のもとに構築された空間としての宝石商の家や、作品終盤で薬物を投入されて隠し部屋のベッドに横たわるヒロイン(偽霊媒師)の姿などから、この最後の劇場公開作品においても『汚名』の構造が反復されていることが見て取れます。同時にここには「横に並ぶこと」と「向き合うこと」も描かれています。