『引き裂かれたカーテン』(アルフレッド・ヒッチコック)

DVDで。ちゃんと観るのは今回が初めて。
もちろん音響は随所において大胆かつ繊細に使用されているのですが、グラスのなかの凍った水をフォークで割るというギャグひとつ取っても、この作品がサイレント映画のような演出とショット構成にもとづいて作られていることが理解できます。もちろんヒッチコックはサイレント時代から映画を撮ってきた監督ですので、このことは驚くにあたりませんが、トーキー以後のほとんどの映画作家たちにはこのような映画を作ることができないという点で、やはり非常に貴重であると言えそうです。あえて言うまでもありませんが、サイレント映画的であること自体が重要なのではなく、考古学的な驚きの体験に満ちていることこそが貴重なのです。
終盤の劇場のシーンは非常に美しく、舞台を見つめる観客たち(そこには主役のふたり、ポール・ニューマンジュリー・アンドリュースも含まれます)の視線、それはスクリーン(テレビモニター)を見つめるわたしたちの視線と相似的なのですが、その視線を舞台上から逆に見返す視線、壁に開いた穴から客席側を見つめ返す視線が描かれています。つまりそれは、映画を観るわたしたちを映画自身が見返す視線であり、そのことがわたしにはとても恐ろしいのです。