『M:i:III』(J・J・エイブラムス)

新宿プラザにて。
 
トム・クルーズ演ずる主人公はシリーズ1作目・2作目と同様、今回もまた垂直軸の人であり、落下運動や上昇運動による宙吊りの姿勢が強調されます。冒頭の救出作戦も、ヴァチカンでの誘拐作戦も、あるいはエレヴェーターからの脱出や「ラビットフット」入手作戦も、作品内のアクションのすべてが徹底的に垂直方向に組織化され、そのことがひとまずはフィルムの空間性を活気づけていると言えます。
しかし今回の最大の特徴は、この垂直軸の運動がトム・クルーズのみに特権化されていないことです。フィリップ・シーモア・ホフマンもまた垂直軸の運動を生きており、飛行機からの宙吊りの姿勢を耐えた彼が、橋の上の水平移動をさえぎりヘリコプターに引き上げられて垂直方向に逃れるさまは、主人公をアクションの位相において相対化し、結果的に主人公を窮地に陥れるでしょう。そこでトム・クルーズが選択するのは逆に水平軸の運動を取り戻すことであり、上海の古い街並みを全力疾走する彼の姿が力強く感動的なのはそれゆえなのです。そしてこの水平移動の回帰が、トム・クルーズの上に(垂直方向に)位置するフィリップ・シーモア・ホフマンを水平移動する運動体によって抹消するという結末をもたらす最大の要因となっているのです。(8/18記)