『ラブレス』(キャスリン・ビグロー、モンティ・モンゴメリー)

DVDで。ビグロー祭り第2弾は彼女の長編デビュー作。観るのは2回目です。
この傑作について、いやこれに限らずキャスリン・ビグローのフィルムについて、その美しさを言葉にするのはとても難しいのですが…例えば『ラブレス』において、アメリカのとある田舎町に密やかに集い、目配せをかわしあうあの口唇器的存在たちのありようからは、奇形的で異様でまがまがしいものを感じさせられます。『悪魔の呼ぶ海へ』のショーン・ペンもワインを飲み続けていましたが、『ラブレス』にあってもウィレム・デフォー、ロバート・ゴードンやその仲間たちはビールにコカ・コーラウイスキーにコーヒーにと、次々に飲み物を口にして、ついにはラストのバーでテーブルの上を無数のビール瓶が埋め尽くすことになります。あるいはデフォーがタイヤのパンクを直す冒頭の場面、彼は車の女性に煙草を要求し、トランクのキーを口にくわえ、しまいには女性に覆い被さって乱暴にキスをする…そして財布からお金を勝手に抜き取ってしまう…それから彼らのあの煙草の吸い方、唇の端からぶら下げるようにして煙草をくわえるあのくわえ方。もちろん彼らは単なるバイカーではありません。ここには間違いなく次の『ニア・ダーク 月夜の出来事』へとつながるものがありますし、さらにはビグローと同世代である相米慎二の後期作品(例えば『東京上空いらっしゃいませ』、例えば『お引越し』)における口唇器的存在たちを、想起させられます。
もうひとつ、「過去へ向かう視線」「回想」の主題も気になります。『悪魔の呼ぶ海へ』もそうでしたが、ビグロー作品の主要登場人物たちは、しばしば過去(の映像)にとらわれているように見えます。この主題は『ストレンジ・デイズ』において全面的に展開されますが、この「回想」の視点というのは何を意味するのか、今しばらく考える必要がありそうです。
 
青山真治の劇場デビュー作『Helpless』の源流のひとつがこの『ラブレス』であることは間違いないと思います。そして『Helpless』もまたとても美しいフィルムでした。