『ハートブルー』(キャスリン・ビグロー)

DVDで。観るのはこれが5回目か6回目。劇場公開時にも観ています。
キアヌ・リーヴスは「水の男」であり、冒頭の射撃試験のシーンとラストシーンの両方で、降りしきる大雨が彼をずぶ濡れにします。ロリ・ペティとの出会いも、パトリック・スウェイジとうち解けた関係になるのも、海の水を介することによってなされています。キアヌ・リーヴスはビーチでの乱闘を経て、パトリック・スウェイジともう一歩踏み込んだ間柄になるわけですが、そこにもシャワーの水が介在することに注目すべきでしょう。『悪魔の呼ぶ海へ』のサラ・ポーリーが、殺人を犯したあとで、波打ち際の岩陰にしゃがみ込み、波しぶきを全身に浴びて震えているさまを、思い出させられもします。
それにしても、キャスリン・ビグロー作品の登場人物たちは、なぜこれほどもはかなくよるべなく哀しげなのでしょう。パトリック・スウェイジの仲間たちばかりでなく、キアヌ・リーヴスにさえ、彼を暖かく支える肉親や学生時代からの友人などの存在が感じられません。いやもちろん彼らにも友人や恋人や同僚はいるわけですが、彼らの感傷を超えた孤独、この世に自分ひとりしか存在しないとでもいうような孤立ぶりが、彼らの身体に印を刻み込んでいるかのようです。そしてその印を認め合ったものたちが、互いに目配せをかわし合う…
(10/1記)