『ブルースチール』(キャスリン・ビグロー)

DVDで。3回目。
ジェイミー・リー・カーティスが警察学校の卒業パーティで女友だちと記念撮影をするシーンがあって、そこで彼女はとっさに友だちをはがいじめにして頭に銃を突きつけるポーズを取ってみせます。もちろんふたりともふざけてやっていることですし、よくある写真撮影の描写ではあるのですが、現実にはそのような行動を取るのは警察官ではなく犯罪者の方です。ジェイミー・リー・カーティスは、この無意識に選択した行動によって、警察官となったその日に、自らの本性をキャメラの前にさらけ出しています。
ロン・シルヴァーとジェイミー・リー・カーティスは同じ種族の生き物であり、女の行動によって種族の記憶を取り戻した男は、今度は逆にいまだ自らの本性に自覚的でない女を覚醒へと導こうとします。ふたりの二度目の接触(女にとっては初めての出会い)のきっかけとなるのが降りしきる雨であることは、『ハートブルー』における同種族のもの同士の接触の場面を、容易に連想させるでしょう*1。男は女に同じ種族であることの自覚を促しますが、女がそれを安易に受け入れることなどもちろんなく、かといって彼女がそこに葛藤を見出し、自己の負の部分を克服するといった心理劇も、ここでは展開されません。彼らは彼らの行動原則に従って行動しているだけであり、自らの抱える欲望にただただ忠実であるだけのように見えます。そしてそのことが男と女を周囲の人びとから切り離して孤立させ、あたかも世界に彼らふたりしか存在しないかのようなよるべなさ、寂しさ、哀しさを観るものに感じさせます。
ラストの銃撃戦の、どこかしら現実から遊離したような白昼夢的な感触が、今も鮮明に記憶に焼きついています。

*1:ロン・シルヴァーが最初の殺人を犯すのも、土砂降りの雨の夜のことでした。