松本圭二「あるゴダール伝」(すばる2008年4月号)

ここ数ヶ月で読んだ小説の中では飛び抜けて刺激的でした(とはいえ最近は小説に限らず本をほとんど読んでないのですが)。過ぎ去ってしまった時間と空間に対する郷愁と、その郷愁の感情も含めた過去と現在のすべてを突き放した眼で見つめる視線の、微妙な均衡状態がすばらしいです。主人公が書いている小説作品の、類型的でありつつもその枠からはみ出していくような想像力の広がりもまた、「あるゴダール伝」と題された文章を、単なる一個人の回想譚にとどめることなく、また美しく醜悪な「青春時代」への単なるノスタルジーにとどめることなく、ひとつの「小説」として機能させる要因となっているように感じました。