『雫』(Leaf)

プレイしたのは2004年発売のリニューアル版です*1。エンディング12種コンプリート、CG・回想100%(だと思います)。ちゃんと計ってはいませんが、おそらく20時間前後でのクリア。
 
言うまでもなく、1996年のオリジナル版を発売当時にプレイした人の受けた衝撃を追体験することは今となっては不可能ですが、それでもわたしはこの『雫』というゲーム作品に強く心を動かされました。不思議なのは、「毒電波」に代表される(いわゆる「中二病」的な)要素にも、「狂気」*2の少女との交感を通じて主人公が「能力」に目覚めるといったプロットにも、いささかなりともオリジナリティは感じられないにもかかわらず、ここには確かに独特で力強いものがあるということです。もちろんそれは、無駄な装飾を排した、ほとんど性急とすら言える展開でプレイヤーを物語に引きずり込む、高橋龍也の巧みなシナリオによるところが大きいのでしょうが、しかし単にそれだけとも言い切れない。ビジュアル、丁寧で的確な演出、音楽、それらすべての複合的な効果、といった説明でも充分とは感じられません。
 
ノベルゲームにおいて不思議に感じられるのは、文章の「上手さ」がゲーム作品のおもしろさに対して決定的な要因にはならないということです。シナリオ構成的な巧みさは必要不可欠なものですが、そこに絵柄や演出や音楽が加わることで、「テキストを読む」という行為は同じであるにもかかわらず、小説を読むこととは決定的に異なる体験が、ノベルゲームには生まれます。わたしにはそのことが非常に興味深く感じられ、ノベルゲーム、なかでも美少女ゲームというジャンルに、強く惹きつけられるのです。

*1:ちなみに2009年発売の『痕-きずあと-』リニューアル版に同梱されています。わたしは知らずに両方買ってしまいました。

*2:この種の物語において、「狂気」は「精神的無垢」と同等のものを意味します。