法条遥『バイロケーション』(角川ホラー文庫)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

バイロケーション (角川ホラー文庫)

ある日突然、自分の知らないところで自分のコピーが出現し、自分自身として振る舞うようになるという設定や、コピーの出現と行動には一定の法則と同時に不確定要素があること、そして本人とコピーとのあいだには「差異」が存在すること、といったアイディアは非常におもしろいです。混乱したテクストは物語上の混迷を表現しているようで、勢いも感じられます。ですが、誤字や日本語の誤用までも演出だとは考えにくく、単に品質を損ねているように思います。かなり興ざめでした。また、先に書いたテキストの混乱についても、これはこれで設計なのかもしれませんが、もう少し視点をコントロールしないと、終盤の驚きが薄れる気がします(わりと序盤の方で主人公とそのコピーの関係性が推測できてしまいます)。とは言え視点についてはあまり整理しすぎると退屈になってしまうので、これでいいのかもしれませんが。