米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社)

電子書籍版を読了。

(6/23追記)米澤穂信の最新作。高校生を主人公に据えた、高校が舞台の「日常のミステリ」、という点では「いつもの米澤穂信」と言えますし、わたし自身読み始めたときには既視感に似たものを感じもしました。では米澤穂信は今回、自身の得意分野で保守的に再生産を繰り返しているだけなのか、というとそんなことはありません。米澤穂信は(シリーズものは別ですが)作品ごとに常に新しいなにかに挑戦していて、その徹底ぶりには倫理的な潔癖さすら感じます。

新しい試みとは、たとえば探偵役が女性と男性のペアではなく、男性同士のコンビであることです。(『犬はどこだ』の探偵は男性ふたりでしたが、一緒に捜査をするわけではなく、加えてあそこにはもうひとり別に性別不詳の探偵がいましたので、少し事情が異なります。)また、探偵コンビがホームズとワトソンにはならず、お互いにホームズでもあり、ワトソンでもあるような相補的関係になっている点も挙げられます。どのエピソードも謎解きの爽快感だけではなく、人生の苦みや後味の悪さが残る、という点はいつも通りですが、前述のような主人公ふたりの力関係がもたらす緊迫感が主たる物語の背後に伏在していて、最後の2篇でそれが前景化する、という構成が実に巧みです。

本と鍵の季節 (集英社文芸単行本)

本と鍵の季節 (集英社文芸単行本)