『百年恋歌』(ホウ・シャオシェン)

シネスイッチ銀座にて。細部にわたるキャメラと設計の繊細さ、そしてその緻密さに決して束縛されない徹底的に自由なありようには、ただただ驚嘆するほかありません。わたしはとにかく最初の1966年編に圧倒されてしまいました。あの高雄のビリヤード屋さんのショットの艶かしさ!そしてチャン・チェンスー・チーを乗せた船が進んでいく海のショットの豊かさ!そしてラスト、雨の中ひとつの傘に入ったふたりが、ためらいがちに手をつなぐシーンの、比類なき美しさ!それにしてもただただビリヤードをやってるだけなのに、なぜあんなにもスリリングな時間・空間を現出させることができるのか…もちろんサイレント映画風の1911年編も、『ミレニアム・マンボ』を想起させる2005年編もすばらしいとしか言いようがありません。
それにしてもホウ・シャオシェンの映画に出てくる食べ物はなんであんなにおいしそうなんでしょう。『憂鬱な楽園』の食事シーンには、思わず映画館を飛び出して中華料理屋さんを探しに行きたくなるほどでしたけれど、今日も1966年編の終盤でチャン・チェンスー・チーが並んで食べる、あれは中華粥でしょうか、それともスープでしょうか、実においしそうでした。あれを劇場で売ればそこそこ儲かりそうな気がします。
 
書き忘れていたことがひとつありました。ここで語られるのは「手紙」をめぐる物語でもあります。3つのエピソードのすべてに「手紙」が出てくるのですが*1、それらの「手紙」が物語内でどのように機能していくかが、フィルム全体を通してのひとつの主題となっているようです。(11/24追記)

*1:2005年編ではパソコンのワープロソフトで書かれた「遺書」がそれにあたります。