吉田直樹『吉田の日々赤裸々。「ファイナルファンタジーXIV」はなぜ新生できたのか』(カドカワ)

ファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア』ディレクター兼プロデューサー・吉田直樹週刊ファミ通連載コラムをまとめた本です。旧版を引き継いでから新生版をリリースするまでの紆余曲折が、時に脱線しつつ語られますが、タイトルで言うほど「赤裸々」な印象を受けないのは、かたちとして残るものなので(飲みの席での話ではないのですから)致し方ないことです。当時の開発周辺の事情をいくらかは感じ取ることができますので、わたしのような旧版からのプレイヤーはそれなりにおもしろく読むことができるはずです。
また、「立ち上げに失敗して会社に損害を与えたプロジェクトを途中から引き継いで立て直す話」という意味では、この本はビジネス書としての側面も併せ持ちます。常々思っているのですが、吉田さんはプロジェクトリーダーとして非常に優れた能力と方法論を持っています。彼の手法は他の分野でも真似できるものです。一般性が高いのですね。方針の透明化や基準の明確化など、学ぶべきことが数多くあります。まあ、頭で理解できてもなかなかここまできっちりとは実践できないものですが…。
他方で、これはこの本とは別のこととして、吉田さんのそのサラリーマンとしての優秀さが、『新生FF14』の「天井」を作ってしまっているように、わたしには感じられます。まずはゲームの土台をしっかり作ることが前提であり…というのはプレイヤーからすれば当然の話で、でもその上にできた建物こそがそのゲームにとっての肝になるわけです。新生版が時代に合った優れたゲームであることは認めたうえで、ではそこから鮮烈な体験を得ることができるかと問われると、わたしには少々頼りなく感じられます。むしろ、吉田さんがことあるごとに悪し様に言う『旧FF14』にこそ、わたしはその先にあるなにかの兆しを感じ、勇気づけられていたのでした。