『ザ・フライ』(デヴィッド・クローネンバーグ)

DVDで。デヴィッド・クローネンバーグの映画にはいくつか未見のものがあって、恥ずかしながらこれも今日が初めてでした。『デッドゾーン』ほどの傑作だとは思えませんでしたが、淡々とした描写には好感が持てます。それにしても、実験を記録していたビデオキャメラ、あれはいったいどういうつもりで導入したのでしょうか、途中ジョン・ゲッツがハエ化の進行したジェフ・ゴールドブラムの食事方法を観るシーンで使われていましたが、それ以外では撮影済みのビデオテープが再生されることはありません。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス)以後多用されることになる、ビデオ映像を使って「擬似ドキュメンタリー」風のリアリティを作品に付与する手法を、クローネンバーグは知っていたとしても使うつもりは全くなかったはずです。ここではむしろ、ビデオ撮影の行為が前提とする(研究)対象との距離が、自身の身体を用いての人体実験と恋愛の体験を経て無効化されてしまい、それゆえに撮影されたビデオテープの再生が不可能になる(もしくは無意味になる)のだ、と考えた方がいいのでしょう。
(1/20記)