『レッツ・ロック・アゲイン!』(ディック・ルード)

吉祥寺バウスシアター1にて。ジョー・ストラマーのドキュメンタリー。クラッシュは中学・高校の頃からよく聴いていたのですが、その後のジョー・ストラマーについてはこれまで詳しいことを知らずにいました。なのでジョー・ストラマー&ザ・メスカレロスのファーストアルバムが赤字で、次が失敗したらもうアルバムを作れなくなるかもしれないという話や、本人自らアメリカのラジオ局をまわって曲をかけてもらったり、ライヴ前に街で手書きのチラシを配って呼び込みしたりしている姿に、かなり驚かされました。なにしろあのクラッシュのジョー・ストラマーなわけです。まさかあの大御所がこんな地道な活動をしなければならない状態にあったとは、夢にも思いませんでした。
でも、この映画はそんな最晩年のストラマーの姿を悲惨なものとして描いているわけではありません。ファンと気軽に接し、ライヴ後もイラストつきのサインを無数にこなすフレンドリーな姿は、決して彼の価値をおとしめるものではありませんし、休日のラジオ局をひとり訪れて扉を開けてもらえず、インターフォンで来訪目的を丁寧に説明する姿は、むしろ彼が根っからのロッカーであることをこそ示しています*1。自分たちの音楽を聴いてもらうために地道な営業活動を続けることは決して格好悪いことではなく、むしろこの映画のジョー・ストラマーは本当にカッコイイのです。一時的な熱狂とは無縁に、ユーモアをもって積み重ねられていく日々の淡々とした行為、そのひとつひとつが彼にとっては闘いなのでしょう。楽曲もすばらしくて、ザ・メスカレロスの曲は恥ずかしながら今回初めて聴いたのですが、クラッシュ時代の名曲に優るとも劣らぬ魅力的なものばかりで、ライヴに行けなかったことが心の底から悔やまれるのでした。

*1:このラジオ局のエピソードは映画の中で最も感動的なパートです。