松浦理英子『最愛の子ども』(文藝春秋)

素晴らしかったです。「わたしたち」と名乗る語り手のスリリングなありようをはじめとして、隅々に至るまで実に巧みに設計されています。物語の舞台となる場所や西暦年号まで特定できるというのに、この中編小説は純度の高い抽象性と非=歴史性を有しているようです(いやそれとも、固有の時間と場所に結びつけられるからこそ、逆説的に?)。ひさびさに「小説」を読んだという満足感と、あまりに美しく手の届かないものを眼にしたときの脱力感と、なぜだか少量の嫉妬(?)とがないまぜになった読後感。

最愛の子ども

最愛の子ども