くらもちふさこ『月のパルス』

出かける前にちょっとだけ読むつもりが、すっかり引き込まれて一気に読了。大げさではなくて、文字通り身体が震えるほど感動してしまいました。くらもちふさこは昔から好きなんだけど、ここまですごかったかなぁ。
驚くべきは全2巻の長さでこれほど錯綜した人間関係を描き、複雑に絡み合う感情の綾を表現しきるその筆力です。主要登場人物(遊馬宇大郎=ウタ、紀朱子=キノ、由水月子=ツキ)の3人はもちろんのこと、例えば宇大郎の友だち藪木中(=ヤブ)がキノに思いを寄せていることをいくつかのセリフで簡潔に示すあたりのさりげなさは手慣れたものですし、ウタとツキを何度もすれ違わせつつ、いかに「出会わせないか」についても、実に巧みに設計されています。もちろんそこにはウタのことを好きなキノの(いささか浅はかな)策略もあるわけですが、それをうすうす察して出会いを微妙に回避しつつも、やっぱりまだ見ぬウタに会いたいという内に秘めた気持ちをツキがキノに話す公園の場面がたまらなくせつないです。自分が親友のキノと同じ人を好きであったと知り、友達を傷つけてしまったことで流した涙を家族に見せまいと、自宅の前で涙を拭き気持ちを切り替えて扉を開けると、反抗的だった弟が自分のかわりにカレーを作っているというあたりの絶妙さ。家族の誰とも血のつながりがなく、それでいて人一倍家族思いのツキと、血のつながった家族に親しみを感じることができず、家ではひとり孤立しているウタとのあいだには、それぞれの抱える痛切な孤独さ故にどうしようもなく互いに惹きつけあう何かがあって、ふたりは出会わないわけにはいかないのだし、そのことを悟ったキノがふたりを引き合わせるという展開も、もちろんこうでしかありえないのです。
この調子で書いてると全部再現してしまいそうなので、このあたりでやめにして、今一度読み返してみることにします。未読の『天然コケッコー』も近いうちに読みたいものです。

月のパルス (1) (クイーンズコミックス―コーラス)

月のパルス (1) (クイーンズコミックス―コーラス)

月のパルス (2) (クイーンズコミックス―コーラス)

月のパルス (2) (クイーンズコミックス―コーラス)