DVD。小津初のカラー作品。二度目か三度目のはずなのに、冒頭の結婚式の場面で「あれ、この映画初めてだったかな…」と一瞬思ってしまいました。我ながらあきれた記憶力です。
帰宅した佐分利信が無造作に床に放る背広の上着を、田中絹代が拾ってハンガーに掛けるという場面がいくつかあって*1、でも『東京物語』の香川京子や『晩春』の月丘夢路とはものを拾い上げるときのスピードや何かが違う印象です。山本富士子の策略で娘(有馬稲子)の結婚を承諾したかたちになってしまった佐分利信が、家に帰って田中絹代を相手に八つ当たりする場面で、田中絹代が反撃に出る前に、一度手に持った背広を床に落とすのですが、この時の動きも「放り投げる」というよりは「落とす」といった感じです(しかしこの直後の田中絹代の剣幕は迫力があります)。このあたり、田中絹代は小津映画のほかの女優たちと比べてちょっと異質な存在であるように感じました。
それからこの作品に限らずですが、立つことと座ること、座るときに向かい合わせに座るか横並びに座るか直角に座るかという位置関係が厳密に設計されているようで、それぞれの動きと位置関係にどのような意味づけがされているのかはまだよくわからないのですけど、これから注意して観てみたいと思います。
それとこの映画、駅の場面で始まり、広島の娘夫婦の元に向かう佐分利信を乗せた列車のショットで終わるわけですが、これまで観た『晩春』『東京物語』『お早よう』のいずれにおいても、走る列車を捉えたショット、駅のホームの場面というのがとても印象的です。小津作品における列車というのも、重要な主題ですね。