『東京物語』(小津安二郎)

眼が痛くて寝不足なので今日は音楽でも聴いてゆっくりしようかと思っていたけれど、観始めてしまえばすっかり引き込まれ、あっというまに130分が終わってしまいます。ラストの原節子の独白をすっかり失念していて(もちろん観ればすぐに思い出すわけですが)、その独白を受けて、笠智衆が何事もなかったかのように形見として懐中時計を渡すという残酷さに、すっかり動揺してしまいました。それから、原節子の部屋に東山千栄子が泊まる場面の、原の表情の凶暴さ。
東山千栄子が土手で孫と遊ぶ場面はなぜか強く記憶に残っていて、でもどの映画の場面だかを、これまたすっかり忘れていたのですが(土手ということで昨日観た『お早よう』の一場面かと思っていたら違ってました)、『東京物語』の最初の方のシーンだったのでした。
また話が飛びますが、『晩春』でもそうでしたけど、小津映画の登場人物たち、特に女性たちは、室内を歩いていて、突然腰をかがめたり膝を曲げずに上半身を折り曲げたりして、床に落ちているもの(ハンカチのようなもの)を拾い上げるという動きをしばしばするのですが、これがとても魅力的なのです。さっと床に手を伸ばして白い布きれのようなものを拾い上げるというだけなのですけど、その不意に見せる素早い動きには魅了されてしまいます。『東京物語』でも幾度か繰り返されるこの仕草、例えば映画のラストで、香川京子がテスト中らしき教室で子供たちの机のあいだを歩いている時に、この動作を見せてくれます。