『小早川家の秋』(小津安二郎)

DVDで。今回初めて。これまた松竹での作品群とは感触の違った映画で、それでいてやっぱり小津作品としか言いようのない傑作です。
まずは新珠三千代のすばらしさ。父親(中村鴈治郎)が昔の女の家に足繁く通っていることを知った彼女が父親を問いつめ、会社の行く末を相談しているのだと言い逃れするのを聞いて、それなら今すぐ相談しに行ってくれと言うやいなや、つと立ってたんすから父の着替えを床に放り投げていく、その「ものを放る」動きの美しさにはしびれました。そして中村鴈治郎。昨日観た『浮草』でもすばらしかったけど、この映画での中村鴈治郎は、あのひょこひょこした歩き方、扇子の使い方といったあたり*1、格別にいいです。
物語と人物配置から言って、『東京物語』(死んだ息子の嫁の再婚話、肉親の死の知らせを受けて駆けつける杉村春子)と『秋日和』(原節子の再婚話と司葉子の縁談、原のマンションと司のオフィス)の入り組んだ変奏となっていながら、舞台を大阪の商家に設定し(原節子をのぞく登場人物たちに大阪弁・京都弁を話させ)、笠智衆のポジションを中村鴈治郎に演じさせることによって、喜劇性と(いい意味での)通俗性を作品に付与しているのです。
それにしてもこうしたいつもと違ったタイプの作品にあっても、小津的主題は律儀なまでに反復されるわけで、中でも「並んで座ること」(と、それとの対比で出てくる「向き合って座ること」)「並んだふたり(もしくは複数の人物)が遠くのものに同時に視線を向けること」といった主題が反復され、最後、中村鴈治郎の葬式の場面*2で重なり合うという構成には、しかし小津的主題の単なる反復以上の、何か別種の可能性が開かれつつあったような気もするのです。

*1:そういえばこの映画でも扇子とうちわが画面内をひらひらと動くのでした。

*2:原節子司葉子笠智衆望月優子新珠三千代加東大介杉村春子小林桂樹らの3つのグループが、火葬場の煙突から出る煙に、横に並んで同時に眼差しを向ける、美しい場面です。