『長屋紳士録』『風の中の牝雞』(小津安二郎)

DVDで。どちらも2度目。『風の中の牝雞』の簡潔な美しさには文字通り震えがきました。84分という短い尺の中に、「横に並んで同じ対象を見る」という小津的主題が幾度か登場し、それと同時に後期小津作品においてはほとんど出てくることのない階段を正面から捉えたショットが何度も反復され、落下する紙風船のイメージなどとともに、ラストの田中絹代の階段落ちを準備するのです。田中絹代が子供の入院費のために身体を売ることを決意する場面、姿見を見つめる田中絹代と、鏡に映った彼女の姿とが、交互に短く繰り返される部分の緊迫感。佐野周二の会社の窓の向こうがダンスホールになっていて、会社の床よりも少し高めの位置で、くるくると踊る男女の姿が遠くにうっすらと見える装置も、とてもいいです。
『長屋紳士録』の脚本は見事としか言いようがなくて、飯田蝶子がだんだん子供に情が移っていき、しかし最後には別れが待っているという展開が、観ているこちらには最初のほうですぐにわかるようになっているわけですが、その別れの前に写真屋さんに行ってふたりの記念写真を撮ってもらうというエピソードが配置されていて、『麦秋』同様に写真撮影が別れの契機になるわけです。それにしても小津作品の視線の演出は実に巧みに設計されていて、どちらの作品でも視線によって登場人物の感情が表現されるのですが、その的確さがなんとも心地よく、これ以上ないほど簡潔なのでした。