『宗方姉妹』(小津安二郎)

DVDで。2回目だというのに、終盤の土砂降りの雨がすっかり記憶から抜け落ちていて、先日観た『浮草』の喧嘩の場面で降る大雨を、「小津作品であんなにも雨が降ることって、あんまりないことだと思います」などと書いたばかりだったので、少し動揺してしまいました。『宗方姉妹』ではこの激しい雨の夜に山村聡が急死し、そのあまりにも急な死が田中絹代上原謙を結局別れさせることになるわけで、やっぱり小津における雨は不穏なものなのでした。
『風の中の牝雞』同様、この作品にも激しい暴力が出てきます。山村聡高峰秀子が閉店後のバーでグラスを壁に向かって投げつける場面、そして山村聡田中絹代の頬を幾度も激しく張る場面。特に深夜のバーのシーンは、店を畳む日の前夜に高峰秀子がバーテンと飲んでいるところへ、山村聡が突然やって来て一気に緊張感が高まり、いつ爆発するかと思ううちに、最後にいたってとうとう山村聡の手からグラスが壁に投げつけられ、それに負けじとばかりに高峰秀子がグラスを片っ端からつかんで次々と投げ始めるわけですが、この作品における高峰秀子は「ものを投げる・放る人」であり「ものを拾う人」でもあるわけで、笠智衆とふたり並んで(観客には見えない位置にいる)ホトトギスを見るシーンなども含めて、小津的主題を体現する存在となっていました。