『お茶漬の味』(小津安二郎)

DVDで。初見。できれば最初ぐらいはフィルムで観たかった…残念。それはともかく、これもまたすばらしい作品でした。
木暮実千代演ずる主人公が、夫(佐分利信)の海外転勤という事態に至って初めて彼の真のよさに気づくという場面、深夜の台所で夫婦そろってごはんやらたくあんやらぬか漬けなんかを探し出し、差し向かいでお茶漬を食べるまでの結構長いシークエンスで、前半のいやみなまでの有閑マダムぶりから一転して彼女が見せるしおらしい素振りは、わたしにとってはなんだかとても気恥ずかしいものだったのですが、その気恥ずかしさも含めて、木暮実千代の演技がこの作品の感触を決定づけているように感じられました。いやもちろんそこまで含めての小津演出なわけですけど、他の作品の乾いた感覚に比べてメロドラマ的な風土が持ち込まれているとしたら、それは木暮実千代によるものが大きいのではないかということです。これが原節子だったらこうはならないでしょう(そもそも原節子にこの役はやらせないでしょうけどね)。
競輪場の場面と野球場の場面もすばらしかったです。映画に出てくる競輪場とか競馬場のシーンって、なんでかよくわからないけれど、美しい場面が多いですよね。ラストの鶴田浩二津島恵子のロングショットでのやりとりは、もろにサイレント映画なんですけど、観ていておかしくてしかたがありませんでした。