『非常線の女』(小津安二郎)

小津のDVDボックスもついに最終巻、第4集に突入しました。この作品も今回が初めてなのですが、とんでもない傑作ですね。女性の側から作られたギャング映画、とでも言いましょうか。すばらしい場面の連続なのですが、ここ数本で気になっている帽子が特に前半で強調されているのがおもしろく、それと岡譲二の顔立ちのフォトジェニックなありようや水久保澄子の愛らしさもさることながら、田中絹代がどうにもすばらしくて、ギャングの情婦という役柄はこの女優の一般的なイメージからはかけ離れているけれど、これを不自然と見るべきではないでしょう。『彼岸花』『宗方姉妹』『風の中の牝雞』と、これまで観てきた小津作品における田中絹代は、例えば原節子三宅邦子とは違ったタイプの女性を演じていて、時に後ろ2本については、戦後の小津作品には珍しい暴力を呼び寄せる女性であったことを思い起こせば、『非常線の女』での拳銃を構える姿は、小津が田中絹代に他の女優にはない何かを見ていたこと、田中絹代にしか託せないものがあっただろうことの、もうひとつの証左と見えてきます。