『東京の合唱』『淑女と髯』(小津安二郎)

DVDで。『東京の合唱』の子供たち*1はその最初の登場場面で円形・球形を作品に導入します。紙風船、自転車、割れてしまったレコード…これらがラストシーンにおけるライスカレーの皿を導き寄せる、などと言えばいささか強引になるでしょうか。「経済的困窮と子供の病気」という、『風の中の牝雞』や『一人息子』などで繰り返される主題が、この作品にも登場します。入院させた娘の容態が落ち着き、岡田時彦演ずる父親が息子をおぶって家に帰るのですが、その姿を母親(八雲恵美子)が病室の窓から見下ろす場面があって、窓枠に切り取られた八雲の美しさがことさら印象的です。
登場人物が窓から外にいる人を見下ろす姿を捉えたショットは『淑女と髯』の最後にも出てきます。『東京の合唱』もそうですが、視線の演出で物語が簡潔に語られていくさまには、これこそ映画だと感嘆させられずにいられません。多くの人たちが岡田時彦の見た目に判断を左右される中で、川崎弘子だけが彼の真の姿を(中盤とラストの二回にわたって)見抜くという話で、髯は女性よけなのだと語る岡田時彦に、川崎弘子がくすくす笑いながら言う「ムダですわ」のひと言が爽快でした。

*1:娘を演じているのは高峰秀子です。