『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(小津安二郎)

DVDで。この作品は2度目。完成度の高さには驚嘆すべきものがあります。いつも並んで歩く主人公の兄弟(菅原秀雄と突貫小僧)は、『お早よう』の兄弟として後に反復されるのみならず、「横に並ぶこと」の主題の完成型として、全ての小津作品の原型をなしているとも言えるでしょう。兄弟は友だちの家で観た映画の中の父親の滑稽な姿にすっかり幻滅すると同時にプライドを傷つけられるわけですが、「映画を観る」ことが物語の最大の山場として設定されていることの重要性とともに、映画が(ある種の)「真実」を映し出してしまうことの残酷さが言い表されているのです。ところで、この作品でもっとも感動的なのは、兄弟が父親に反抗し大暴れして折檻され、泣き疲れて眠ってしまう場面です。兄弟の4つの瞳が並んで閉じられているさまを、別の4つの瞳、すなわち斎藤達雄と吉川満子の父母が見つめるショットは、「真実」を目撃して深く傷ついてしまった子供たちを見守るものがいることを表わして、この上なく美しいのです。
それにしても吉川満子演ずる母親は控えめでありながらとても重要な位置を占めていて、後の作品であれば不在として描かれるはずの母親の存在こそが、この一家(とこの作品)を強く支えていると言えるのではないでしょうか。