『新ドイツ零年』(ジャン=リュック・ゴダール)

吉祥寺バウスシアターにて。boid presents Sonic Ooze Vol.8「爆音ゴダール・ナイト#1」3本目。このフィルムを観るのはひさしぶり。旧東独に潜伏していた密偵レミー・コーション=エディ・コンスタンティーヌが壁崩壊後に西側へと向かう行程に、ドイツおよびヨーロッパ近代の歴史の省察が重ねられ、さらにそこにドイツに関係するもの、直接関係ないものも含めて文学・哲学・音楽・絵画・映画の多岐にわたる引用が関係づけられる、それら莫大な情報が62分という上映時間の中に凝縮されるさまは、まさに圧巻です。
エディ・コンスタンティーヌもハンス・ツィシュラーも声にとても深みがあって艶やかで、ナレーションを聴いているだけでもうっとりしてしまいますが、積年の疲労の表情を見せながらも、コートの裾をひるがえして凍り付いた湖の畔を歩く姿や、溶けかかって汚れた雪でぬかるんだ道を横切る姿が続く、これはそうした歩行の映画ですし、その一方で西側に戻ってきたエディ・コンスタンティーヌがタクシーに乗って夜の街を移動する場面があって*1、その前にはボートを漕いで湖を渡っていく彼の姿が捉えられ、ほかにもドン・キホーテの乗る馬や鉄道やトラックが登場する、多種多様な乗り物の映画でもあります。タクシーのシーンに続く場面では夜の街が(またしても)美しく捉えられ、そこから『最後の人』(フリードリヒ・ウィルヘルム・ムルナウ)のイメージに接続されるわけです。
今日の上映は前2作品の時以上に「爆音」になっていて、弦楽器の重低音が身体に直接響くのがとても心地よく感じられました。

*1:アルファヴィル』でもエディ・コンスタンティーヌが車に乗って街中を移動する場面は印象的に描かれていました。