『ドミノ』(トニー・スコット)

吉祥寺東宝にて。楽しみにしていたトニー・スコットの新作、公開初日に駆けつけましたが劇場はガラガラでした。
前作『マイ・ボディガード』同様、今回もものすごくおもしろい映画だと思うのですが、正直このおもしろさをどう言い表したらいいものか、観終わって以来ずっと悩んでいます。キーラ・ナイトレイは正直言って微妙で、序盤ではこの女優失敗なんじゃないかととても不安だったのですが、彼女のアクションで見せる映画ではないんですよね。この作品の主要な関心事は1,000万ドルの移動だったり(「アフガニスタン人民解放」のために奪われたはずなのに、ラストで段ボール詰めされてアフガンに届いた紙幣は子供たちによって宙にまかれてしまう)、5つの集団(バウンティ・ハンター、マフィア、カジノオーナー、FBIアフガニスタンの闘士?)が入り乱れる終盤のラスヴェガスのタワーだったり、「ビバリーヒルズ高校/青春白書」の俳優たちが彼ら自身の役で出ているといった現実と虚構の混淆ぶりだったり(もともとこの映画自体が実話に基づいているわけで、それを考えるとここでやられているのはかなり入り組んだ混淆なのです)、俗悪なるものの象徴としてのテレビだったり(クリストファー・ウォーケンミーナ・スヴァーリが秀逸!)、といったことにあるようで、取り調べというかたちで回想形式で語られる1,000万ドルをめぐる錯綜した物語が終わって、キーラ・ナイトレイビバリーヒルズにある母親(ジャクリーン・ビセット)の住む豪邸のプールで泳ぐ姿が映し出される時、それまでの全てが一瞬の夢であったかのような不思議な感覚に囚われもするのです。アフガニスタン人の「自爆」によって(高層タワーが爆破される!)すべての対立があっけなく解消され、主人公はもとの平穏な日常に何事もなかったかのように戻っているという話を、「実話に基づいている」と言ってけろっとした顔で差し出してみせるトニー・スコット(とリチャード・ケリー)には、心底驚かされます。
テレビショーに出演したモニークが、自分のようなラテンとアフリカンアメリカンの混血(彼女は「ブラックティーノ」という名称で呼んでいましたが)をそれ自体独立したコミュニティとして政府に認めて欲しいと訴え、ついでに他の混血グループの呼称も表にして示していましたが、陸運局に勤めて闇で偽造免許証を売りさばいている彼女の仲間たち(モニークと同じ混血もいればオカマもいる)=「中間の人びと」こそが、この映画の影の主役である、とも言えるでしょう。
それにしても荒野にいきなり現れるトム・ウェイツには驚きました。あの唐突さはなんともすばらしいのですが、そこで重病を患っているモニークの孫娘とイエスが重ねられ、なんとなくみんな納得してしまうあたりも、よくよく考えれば奇妙な話なわけで、やっぱりこれはどこかおかしな調子の狂った映画だ思います(いい意味で)。