『イン・ハー・シューズ』(カーティス・ハンソン)

新宿スカラ3にて。風邪と腰痛のせいで土曜日から日曜の昼にかけて家でぐったりしていましたが、夕方になっていくぶんマシになってきたので、公開前から楽しみにしていたこの映画を観に行ってきました。
カーティス・ハンソンは大好きな監督のひとりで、『バッド・インフルエンス/悪影響』『ゆりかごを揺らす手』『激流』『L.A.コンフィデンシャル』『ワンダー・ボーイズ』『8 Mile』と、どれをとっても好きな作品ばかりなのですが、例えばこの新作にしても、このぐらいの話に2時間以上かけてしまうあたり、(脚本も含めてですが)決して巧みな語り手とは言い難いのでしょう。けれどだからといって、今回の作品が退屈かと言えばそんなことはなく、なんとも気持ちのいいフィルムなのです。冒頭、トニ・コレットが寝ているところを呼び出されて泥酔した妹(キャメロン・ディアス)を車で迎えに行き、実家に連れ帰ると義母が出てきて追い出されるという一連のシークエンスからしてとても魅力的ですし、中盤の盲目の老教授とキャメロン・ディアスの場面なども、たどたどしい発音で詩を朗読するディアスの横顔を、窓からの光を背景に逆光気味に捉えたショットから、演出家がこのシーンを本気で撮っていることがひしひしと伝わってきて、非常に力強い、美しい場面になっていました。カーティス・ハンソンの才能はこういういくつかの場面の構築力にあるのだと思います。キャメロン・ディアスが人の家に入ると決まって引き出しを勝手に開けてまわり、お金をくすねてしまうというのも、設定として実にいいです。
東京ではここ数週間晴天続きで乾燥しきっていたのですが、今日はひさびさに午後から雨が降って、劇場を出た時には雨はあがっていましたがひんやりとした空気が適度に湿り気を帯びていて肌に心地よく、その後大戸屋で食べた豚と野菜の湯引き定食もおいしかったし、映画もごはんも腹八分目でしあわせな気持ちになって家に帰ってきました。