『ALWAYS 三丁目の夕日』(山崎貴)

会社帰りに、新宿コマ東宝にて。ところでわたしはこの新宿コマ東宝という小屋が大好きで、東宝系の邦画は極力ここで観るように心がけています。あのいかにも一昔前の映画館といった風情の、天井が高くて椅子のクッションが過剰に柔らかくなくてアームが木製で床がリノリューム貼りで、暖房があんまり効いていない寒々としただだっ広い空間で、毎年正月にゴジラの新作を観てしあわせな気分に浸っていたものです。そう言えば今年はゴジラないんでしたっけ…。
下町人情もの、厳密には違いますがいわゆる「長屋もの」を、それこそ小津の『長屋紳士録』あたりを想起させるようにして作っている点は好ましく感じられますし、実際わたしもところどころで涙腺を刺激されました(とはいえわたしの涙腺はかなり緩めに設計されているのですけれど)。しかしあえて言えば、この演出家には決定的に才能が欠落しているように思います。例えばラスト、吉岡秀隆が少年の書き置きを見て店を飛び出し走り出すところの疾走感を欠いたさまもさることながら、戻ってきた少年に接する際の演出はいかにも無駄で弛緩しています。吉岡が小雪にプロポーズした翌日、店に行ってみるとすでに彼女は去った後だったというところも、その前の小雪が出て行く場面など必要ないはずです。空間設計も平板に過ぎていて、吉岡秀隆の駄菓子屋にはもう少し奥行きが欲しいし、商店街全体にも起伏と広がりがあった方がいいでしょう。『秋立ちぬ』(成瀬巳喜男)とまでいかないにしても、昨日の『イン・ハー・シューズ』で言うなら老教授の病室のシーン、ああいう充実したシーンや決定的な瞬間を作り出すことには、残念ながら成功していないと思うのです。
とはいえ、決して退屈な映画ではないですし、何よりこれをシネスコで撮るという心意気には製作陣の熱意を強く感じます*1。わたしもなんだかんだ言いながら存分に楽しんでまいりました。特に堀北真希の母親からの手紙のくだり、あそこには思わず涙してしまいました。母子ものに弱いんです、わたし。そのあとの汽車(電車かな?)と平行して土手を走る軽トラックもよかったです。

*1:シン・シティ』のあの貧乏くさいヴィスタサイズの画面を思い出すこと。