『限りなき鋪道』(成瀬巳喜男)

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。初見。ピアノ伴奏は柳下美恵さんでした。これまた実にすばらしいフィルムで、昨日の『夜ごとの夢』もそうでしたが、室内のドラマを撮影する際の人の動かし方とショットの連鎖が問答無用のすごさで、それまで室内に置かれていたキャメラがポンと窓の外に出る呼吸もこれ以外ないというほどの絶妙さで、だんだん魔法を観ているような心地にさせられます。忍節子と香取千代子の住むアパート、嫁ぎ先での夕食の席で忍節子が姑と小姑にいじめられる場面、そして終盤の病室と、充実した場面ばかりなのですが、屋外もそれに劣らぬ美しさで、忍節子が磯野秋雄と線路沿いの道を並んで歩く、その歩行がこれまたすばらしいのでした。
それにしても今回の5本の成瀬作品、観ておいて本当によかったです。文字通り号泣してしまった『生さぬ仲』、『夜ごとの夢』と『君と別れて』の言葉に尽くしがたい美しさ、どれも機会があったらまた観たいものです。5人のピアニストによる、映画への敬意と創意に満ちあふれた伴奏も、本当によかったと思います。