『第九交響楽』(デトレフ・ジールク)

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。初見。身分の偽装、階段などなど、ダクラス・サーク的な主題・装置はすでにドイツ時代から扱われていたのだということを知ったわけですが、いやそんなことよりなにより、もうとにかく圧倒的にすばらしいフィルムなのでした。子供を捨てて逃げてきた異国の地で、夫に自殺されて生きる希望をなくしたかに見えた女性が、隣室から聞こえてくるラジオの、遠く故郷のドイツで演奏されるベートーヴェンの第九交響曲に、我知らずベッドから身を起こして耳を澄ませる、あそこだけでも十分すぎるほどすごいのです。
(1/30記)