『映画作家ストローブ=ユイレ/あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(ペドロ・コスタ)

アテネ・フランセ文化センターにて。昨年ようやく観ることができた『ヴァンダの部屋』に続いて、これが2本目のペドロ・コスタ作品です。『ヴァンダの部屋』も観終わってから今に至るまでずっと心に引っかかり続けている不思議な感触に満ちたフィルムでしたが、このストローブ=ユイレのドキュメンタリーもまた同様にいわく言い難い手触りの作品で、なんというか、美しいとしか言いようがありません。それにしても薄暗い編集室の戸口を出たり入ったり、あるいは煙草をくわえて外の廊下をゆっくり往復するここでのジャン=マリー・ストローブの姿からは、『ヴァンダの部屋』のヴァンダを思い出させられはしないでしょうか*1。そう考えるとあの編集室もまた、リスボンのスラム街の一室のように見えてきます。編集機のうえで同じ場面が繰り返し再生され、時にゆっくりと、時に逆回転で見せられもする『シチリア!』のフィルム自体、『ヴァンダの部屋』の解体されてゆくスラム街と、そこで繰り広げられる日常の風景のようだ、などと言えば少し言い過ぎになるかもしれませんが。
ジャン=マリー・ストローブダニエル・ユイレの後ろで編集作業を見つめつつ、またその合間に廊下で煙草をくゆらせつつ、絶えずブツブツと言葉を口にしています。具体的な編集作業、一コマ単位での厳密な切断と接続の検討の中から思考が生まれ、そして今度はその思考を検討する作業を通して、理詰めにというよりは充分な逡巡の後の跳躍として、どのコマでカットするかが具体的に決定される、こうした彼らの編集作業もまた(実際に映画製作に携わっているわけではないわたしにとっても)非常に刺激的でした。

*1:ヴァンダ同様、ストローブも絶えず咳をしています。