『ニア・ダーク 月夜の出来事』(キャスリン・ビグロー)

DVDで。
2006年9月ですからちょうど3年前になりますが、この映画の国内盤DVD発売を知っておおいに興奮し、「キャスリン・ビグロー祭り」と称して他の映画をひととおり観直したことがありました。ところがなんとも間抜けなことに肝心の『ニア・ダーク 月夜の出来事』そのものは観直す機会を逸してしまい、買ったDVDはそのまま棚の奥に3年間眠っておりました。
この映画を観るのはこれが3度目ですが、少なくともわたしにとってこの上なく大切な映画であることを再確認することができました。ここには掛け値なしの美しさが存在しています。西部劇であり、疑似家族の物語であり、「他人の血」の物語であり、口唇器の映画であり…という多面的なありようもさることながら、やはりなんと言ってもこれは「フィルム」の映画であり、永遠の命を持ち、光に反応する(感光する)存在である彼ら「吸血鬼」は、まさしく「フィルム」そのものとして描かれています。最後のランス・ヘンリクセンの瞳は「フィルム」の眼であり、まっすぐにわたしたちを見返すその瞳こそが、この映画でもっとも美しく、もっとも恐ろしいショットです。
ランス・ヘンリクセンジャネット・ゴールドスタインも尋常ならざるカッコよさですが、ジェニー・ライトの愛らしさもまた映画を非常に魅力的なものにしています。あの冒頭のシーンの、アイスクリームを食べる彼女の姿を捉えたショットは実にすばらしく、主人公とともにわたしたちもまた、彼女に、「吸血鬼」の血族に、「フィルム」に、吸い寄せられずにはいられません。そして悪夢のような感触で事態が進行するバーのシーンのすばらしさも、演出家キャスリン・ビグローの実力を示してあまりある出来映えだと思います。
ところで『K-19』以来となるひさびさの新作『The Hurt Locker』の日本公開の予定はあるのでしょうか。