『ライフ・アクアティック』

夜は恵比寿ガーデンシネマで『ライフ・アクアティック』(ウェス・アンダーソン)を観てきました。
ちょっと疲れていて集中力が若干低めだったのですが…ラスト、ジャガーザメ登場の瞬間、涙が止まらなくなってしまいました。そして「僕のこと覚えているかな…」というビル・マーレイのセリフ。
 
早くから阿部和重中原昌也が大絶賛していたこともあり、『天才マックスの世界』の監督の最新作には期待していたのですが、正直なところ、大泣きして帰ってきた今でも、頭が整理できてないのです。「傑作!」という感触よりは、なんとも不思議なものを観てしまったという感覚に近いかもしれません。でも、なにかしらこれまでに観たことのないことがスクリーン上で起こっているということはよく分かります。これに比べれば前作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』も『天才マックスの世界』も、まだまだ旧来の枠のなかから出ていなかったようにも感じられてきます。映画をめぐる映画ではあるのですが、それをかつてなかったようなやり方でフィルムに定着した、などと書いても何も言ったことにならないのですが、これまでのどんな映画にも似ていないこの作品自体が、「新しい」映画の姿でもあるということなのでしょう。
 
とにかくビル・マーレイにはやられました。ウェス・アンダーソン作品の主人公たちの饒舌さと嘘くささを引き受けつつも、ビル・マーレイにはジーン・ハックマンジェイソン・シュワルツマンにはなかった(あるいは彼らが抱えていたものよりずっと根深い)諦念と絶望が感じられますが、それは物語上の設定ということ以上に、ビル・マーレイにもともと備わっている資質のような気がします。そして全編を通してポルトガル語で歌われるデイヴィッド・ボウイ。個々のシーンについては挙げればきりがないのですが(例えば気球に乗ったビル・マーレイケイト・ブランシェットの姿を捉えた逆光のショット、例えばヘリコプターが墜落して流血しながら海を漂うオーウェン・ウィルソンと彼を抱きかかえるビル・マーレイ、などなど)、なんと言ってもラストの潜水艦の場面、子供を肩車しつつ群衆の先頭に立って映画祭の赤絨毯を進む主人公、そしてエンドロールでチームの仲間たちと共に再び船に乗り込み、冒険(=映画)に立ち向かっていくビル・マーレイの姿を見れば、誰だって涙せずにはいられないはずです。
さきほど傑作という感触ではないと書きましたが、いややはりこれは傑作であると、言い切りたい気持ちです。ぜひもう一度スクリーンで観たいと思います。