加藤幹郎『ヒッチコック「裏窓」 ミステリの映画学』(みすず書房)

ヒッチコック『裏窓』ミステリの映画学 (理想の教室)

ヒッチコック『裏窓』ミステリの映画学 (理想の教室)

昨日読了。みすず書房から刊行の始まった「理想の教室」シリーズの1冊。こんな薄い本にえらく時間かかってしまいました。
『裏窓』における「外見と内実の乖離」、すなわち物語上は殺人事件が起きたということになっていて、主人公以下登場人物たちも観客もそのことを信じて疑わないのですが、そのような「外見」とは裏腹に、実際に殺人事件が起こったという客観的証拠(殺人事件そのものを捉えたショットや証拠を写したショット)がフィルムのどこにも存在しないという意味で殺人事件という「内実」を決定的に欠いている、こうした乖離状態を詳細に分析するあたりは非常に面白く、さらにこの「外見と内実の乖離」という側面からヒッチコックフィルモグラフィーを検討し、古典的ハリウッド映画の内部から脱構築を図ったヒッチコックの驚くべき仕事を跡づける部分も大変刺激的でした。個人的にはこのヒッチコックの仕事を受け継いだエリック・ロメールの『緑の光線』をめぐる記述に不意をつかれて、わたしもあの映画のラストで、「あれ?」と確かに感じつつも、そのような疑念を封じ込めて「緑の光線」を観たと思いこんでしまったのです。まさに「裸の王様」状態。そんなわけでヒッチコックもさることながら、ロメールを観直したくなりました。