『めまい』(アルフレッド・ヒッチコック)

DVDで。すでに何度目かわからないぐらい繰り返し観たこの映画、わたしにとってはヒッチコック作品の中でも特別に大好きな1本です。作品の質としては『裏窓』もすごいし『サイコ』もすごいわけだけど、『めまい』はそういった評価を超えて、とにかく好きなんです。こうして観直してみても、それがなぜだかよくわからないのですが、ひとつにはキム・ノヴァクの、決して美しいとは言い難い容姿のせいなのかもしれません。あれは意図的に美しくなく撮っているように思えるのですが、実際そんなことがあるのでしょうか。それとこの映画、後半になって俄然輝きを見せ始めるわけで、ジェームズ・スチュアートが偏執狂的な執念深さでキム・ノヴァクを変身させ、愛していたにもかかわらず自殺を止めることができなかった(とスチュアートが思いこんでいる)人妻の姿に造りかえていくさまは、一方でキム・ノヴァクの気持ちを知らされている観客としては、かなりせつないものがあって、そこにある情感(のすれ違い)に、ヒッチコックらしからぬ感触を勝手に受け取っているだけなのかもしれません。それにしても、すっかり死んだ人妻の姿に変身させられたキム・ノヴァクジェームズ・スチュアートが抱きしめキスをして、すると過去の馬車小屋の場面が彼の脳裏に甦ってくるというところを、スクリーンプロセスで表現するあたりのすごさは、やっぱりヒッチコックならではなのですが。