『淑女は何を忘れたか』(小津安二郎)

DVDで。初見。桑野通子のキュートなモダンガールと、ひょろりと背の高い斎藤達雄の恐妻家ぶりが実に魅力的でした。脚本もとてもよくて、斎藤達雄・栗島すみ子の夫婦の間に、おそらく長い年月をかけて作られてしまった力学・関係性が、大阪からやって来た桑野通子演ずる姪によっていったん壊され、新しい関係が築き直されるという物語なのですが、でもわたしとしては、1930年代のハリウッドのコメディ映画からの影響という側面よりも、例えば桑野通子の秩序の壊乱者としての役回りは後に『秋日和』の岡田茉莉子や『彼岸花』の山本富士子によってかたちを変えて演じられるわけですし*1、あるいは「並んで歩く/座ること」「同じ対象に視線を向けること」といった小津作品に頻出する主題がここでもまた物語上の重要な分節点となっているわけで、その徹底した一貫性には驚かされるばかりなのです。

*1:しかし、これらの女優たちが全く同じ役柄を演じているわけではもちろんなくて、演ずる女優にあわせたかたちで、そのニュアンスは微妙に異なった表情を見せています。