- 作者: 保坂和志
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/07
- メディア: 単行本
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そしてラストの噛み合わない会話の場面。「私」と綾子の会話は一見食い違っているのにどこかしら通じ合っているようで、そのうち「妻」の理恵が帰ってきて、浩介や森中が加わり、ゆかりも入って、その家で生活し仕事をしている6人の人間と3匹の猫が一堂に会するというシーンなのですが、6人が集まってもひとつの話題が常に全員に共有されるわけではなく、あるときは全く個別に話をしたり独り言を言ったり鼻歌を歌ったりしていて他の人の言葉には直接的には応えず(でもどこかで共鳴し反応している)、イベントの企画が決まったことを森中が大声で伝えればその話題が瞬時にみなに共有され、猫は猫で人間とのやりとり、猫どうしのやりとりを重ねつつ、外の音にも聞き耳を立て、そこに(「私」の考えでは)過去にこの家に暮らした人びとや犬や猫の体験が、そして4年前に白血病で死んでしまった猫のチャーちゃんの記憶が、反響し共鳴するということになっていて、「私」が周囲の人びとに刺激を受けながら小説の中でうねうねと考え続けてきたことが、まさにこのラストの美しい場面において十全に実現されているのです。
この小説に展開されている「思想」「哲学」を、わたしは完全に理解できているわけではないのですが、人や猫や家やその他の「自然」とともに並列されるものとして、そのような「思想」「哲学」、「考える」ということが扱われていて、そこを読むことができればいいのだと思います。