『女の中にいる他人』(成瀬巳喜男)

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。ひさびさにフィルムセンターに行ったけれど、やっぱりここはあんまり好きになれない…それでも成瀬は観たいわけです。数年前の三百人劇場での成瀬特集で代表的な作品はあらかた観ているのですが、この『女の中にいる他人』だけは未見で、恥ずかしながら今日が初めて。ひさびさの成瀬演出を存分に堪能いたしました。
観ながらいろいろなことを考えていたのですが、例えば冒頭のガラス窓、ビアホールにいる小林桂樹を偶然通りかかった三橋達也が外から見つけて、ガラスをたたいて注意をうながす場面であったり、梅雨の時期から夏にかけての話ということで前半やたらに雨が降るのですが、家の中から見えるその雨だったり、あるいは小林桂樹が最初に会社に行く場面で、会社の窓の外に見える工事中の建物だったり、小林桂樹三橋達也の家で殺人を告白する場面、向かいの家で若い男女が踊っているのが窓越しに見えるといった設計に、強く惹かれます。それから新珠三千代がとにかくすばらしく、温泉宿の場面なんか実によくて、彼女をひたすら見つめてしまうのでした。