『クリスタル・ボイジャー』(デヴィッド・エルフィック)

吉祥寺バウスシアターにて、boid presents Sonic Ooze Vol.7「爆音サーフの夜」2本目。先週の『ステップ・イントゥ・リキッド』がサーファーたちの生態を総合的に概観するような視点だったとして、今日の『クリスタル・ボイジャー』はよりパーソナルであり、(変な言い方になるけれど)より接近した視点を持っています。ジョージ・グリノーというひとりのサーファーにスポットを当て、彼の欲望が全面的に描かれるのですが、その欲望は彼の使う水中キャメラの映像のように、ひずみと揺れを内包していて、観るものを心地よくすると同時に船酔い状態にもするのです。この男、混雑する海岸を嫌って、ひとつの波をひとりで独占できるような人のいない場所に行くためにボートを自力で改造したりするわけで、かなり強烈な欲望の持ち主なわけですが、そのディストーションのかかった欲望が全開するピンク・フロイド「エコーズ」のシーンでは、チューブを中から撮った映像に加えて、チューブの外側からチューブの「肌」を捉えたショット、画面の右側を波がひたすら迫り上がっていくショットがいくつも繰り返され、迫り上がった波が限界点を迎えて崩れ始め、その直後にできあがるチューブを波の内側から見たときに見える「肌」のあの艶めかしい感触を思うとき、崩れきった波の巻き起こす大きな渦にその感触が飲み込まれるまでの時間が、無限に引き延ばされていくかのようで、爆音の「エコーズ」ともども、めまいを伴った記憶として、確かに頭に焼きついているのでした。