『チャーリーとチョコレート工場』(ティム・バートン)

新宿ピカデリー1にて。ティム・バートン作品ではおなじみの、小高い場所にそびえる屋敷(工場)とその下に広がる街という世界の中で物語は繰り広げられます。頭全体を覆う歯列矯正器を装着した子供時代のウィリー・ウォンカがハロウィンでもらってきたお菓子をクリストファー・リー演ずる父親に暖炉で燃やされてしまう場面や、工場見学の最初に見せられる自動人形が燃え上がって溶け出してしまうあたり、ほとんどホラー映画と言ってもいいでしょう。『2001年宇宙の旅』や『サイコ』への言及を含み、そしてなにより『市民ケーン』の記憶に基づいて作られているこの作品、隅々まで映画的記憶に充ち満ちているわけですが、それと同時に円形・球形の物体と運動に取り憑かれてもいることは、暖炉の灰の中からウィリー少年が拾い出した初めて味わうチョコレートの形状からも明らかです。リスが殻をむくナッツやらカムを噛んで巨大なブルーベリーに変貌してしまう少女なども同様であり、工場の内部を満たすウンパ・ルンパ(たち)を演ずるディープ・ロイも、間違いなくあの丸顔故にキャスティングされているはずです*1。では、チョコレート=チケットの矩形と、これら球形・円形のどちらが優位に立つことができるのでしょうか。「金のチケット」が、祖父のへそくりの硬貨(円形)ではなく、拾った紙幣(矩形)で手に入れたものであることを考えると、いったんは矩形の優位が示されているようではありますが…
落下運動もまた、ティム・バートン的な主題です。『シザーハンズ』の雪のように、ラストではチャーリー(フレディー・ハイモア)たちの家の屋根に粉砂糖(なのでしょうねあれは)の雪が降ります。ウィリー・ウォンカ(ジョニー・デップ)のエレヴェーターが急降下してその屋根を突き破る時の激しさは、父親との和解を経て、雪の落下運動の柔らかな暖かさに変化しつつ接続される、ということになるでしょうか。

*1:というのはもちろん言い過ぎで、クイストファー・リー同様、ロイが俳優・スタントマンとして関わったフィルム群の記憶に基づいての配役であることは言うまでもありません。