『シン・シティ』(フランク・ミラー、ロバート・ロドリゲス)

新宿ミラノ座にて。ひさびさにひどいものを観させられました。冒頭から延々と続くヴォイスオーヴァーの趣味の悪さに心底うんざりさせられ、それはどうにか我慢するにしても、キャメラポジションや人物配置や空間設計がことごとく的外れで、しまいには配役までてんで間違って見えてきて、最後までイライラ、うんざりしっぱなしでした。退屈なわけではないんです、ただただひどい、趣味が悪い。ノワールもので、娼婦がいっぱい出てきて裏切りや密告が横行する世界というのは大好きですし、個々の場面の設定は決して悪くないのです。ミッキー・ロークのエピソードなどはちゃんと撮れば絶対面白くなるだろうし、クライヴ・オーウェンが死体を捨てに行く途中で襲われてタールの池に沈むとか、ああいうところも十分魅力的な要素を持っています、それなのに出来上がった映画がこうなってしまうのは、いったいなぜなのでしょうか。
漫画を忠実に再現した全く新しい映画なんだとか、原作のひとコマひとコマを絵コンテにして撮影していて、それを従来の映画文法(なんて大げさな話じゃないんですけど)と比較するのはそもそも間違ってるとか、そういう話はこの際見当違いというものです。あくまで映画を作っているわけだし観ているわけなのだから、それが「映画」になっているかどうかが問題のはずです。娼婦たちが並んでマシンガンを撃ちまくる場面の、あの立ち方、あの撃ち方はあまりにひどいし、監察官の女がミッキー・ロークを裏切って警官に殺される場面なども、あれではちっともおもしろくないわけです。エピソードのつなぎ方なども、『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ)のほうがよっぽどよく練りこまれています(『パルプ・フィクション』も決して大好きな映画ではありませんが)。あらかじめ放棄された演出、ずさんな脚本とくれば、どれだけいい役者をそろえても魅力的な映画になるはずがありません。
もう少しまともなものを期待していたのですけれど。友だちからは「期待するのが間違ってる」「最初からいやな予感がしてた」とさんざんな言われようでした。