『朗かに歩め』(小津安二郎)

DVDで。『非常線の女』の原型のような作品です。主人公(高田稔)と弟分(吉谷久雄)との関係は、小津作品にはあまり見られない種類の(やくざ映画風の)ウェットなものですが、最晩年の作品に至るまで繰り返される男同士・女同士の排他的関係性のヴァリエーションと捉えることもできます。
小津作品で女性が鏡をのぞく時、その女性が身体を売っている(あるいはこれからそうしようとしている)ことが暗に示されるわけですが(『東京の女』しかり、『風の中の牝雞』しかり)、『朗かに歩め』の川嵜弘子は姿見をのぞき込んでも身を持ち崩すようなことはありません。手鏡の反射光に引きよせられるように彼女がビルの窓を見上げ、ギャング商売から足を洗って窓ふきの仕事をしている高田稔の姿を偶然眼にするわけですが、ここでは鏡がふたりの再会を媒介するものとして用いられています。それにしても見上げる視線というのはどうしてこうも画面を活気づけるのでしょうか。