『学生ロマンス 若き日』(小津安二郎)

DVDで。「横に並ぶこと」の主題は、この最初期の作品*1においてすでに全面的に展開されています。結城一郎と斎藤達雄のコンビは、下宿で窓際の机に並んで座り、窓を開けて外の煙突を眺めますし、スキー場に向かう汽車でも窓からふたり一緒に身を乗り出して外の景色を見るのですが、このとき最初に結城一郎が外を見やり、斎藤達雄の注意をうながして斎藤が同じ方向に眼差しを向ける、という順番で事態は推移します。ふたりが横に並んで同じ対象物を見る、という晩年の作品群における視線の平行性と、一方がもう一方の視線を誘うという行為が、ほとんど完成型と言っていいかたちで定着されているのです。
スキー場に着いても、松井潤子を加えた3人は、雪原での滑走より雪の上に腰を下ろして話をすることに熱中します。滑走するのは斎藤達雄の片一方のスキー板で、それを追いかけて全力で走る斎藤の姿が笑いを誘うのですが、それはともかく、松井潤子をめぐっていったんは仲違いする結城と斎藤は、帰りの汽車で偶然同じ車両に居合わせたムジナというあだ名の教師を発見することで、「平行する視線」を取り戻し、わだかまりを解消します。
移動撮影、溶暗・溶明のほかにも、旅館の部屋の空間の使い方など、後の小津作品では見られない技法が多く用いられているのも興味深いです。いずれの技法も生き生きとした画面作りに大きく貢献しています。

*1:『学生ロマンス 若き日』は1929年公開で、小津の8本目の監督作品です。ちなみに監督デビュー作は1927年の『懺悔の刃』。