『ジョン・カーペンターの要塞警察』(ジョン・カーペンター)

ビデオで。
引越し後の閑散とした警察署に男が駆け込んでくる。極度の緊張と恐怖でうまく話せないが、男はたった今、娘を殺害した男を撃ち殺してきたところだと言う。そうこうしているうちに仲間を殺されたギャングたちが男を追ってきて、警察署は完全に包囲される。電話が不通になり、電線も切られ、不用意に外に出た警官数名があっという間に射殺される。生き残ったのは警部補と秘書の女性、逃げてきた男と、一時的に収監されていた移送中の囚人ふたりの計5名。ギャングたちが建物に接近してきて、激しい銃撃が続き、裏口がこじ開けられる。扉を押さえていた囚人のひとり、有名な凶悪犯ナポレオン・ウィルソン(ダーウィン・ジョストン)が叫ぶ。「もう押さえきれない!銃をくれ!」。警部補が木箱を力ずくでこじ開け、中からショットガンを取りだしてウィルソンに投げ渡し、すかさずウィルソンは扉に向けて銃を発射する…
有名なシーンですが、ショットガンを投げ渡してから銃身をスライドさせて撃つまでの一連の動作をワンショットで捉える無駄のない美しさが何度観てもすばらしく、何度も巻き戻して観てしまいます。低予算ゆえということもあるのでしょうが、全てがあっけないほど簡潔です。煙草をくわえたウィルソンに女秘書が火を差し出すところ、アイスクリーム売りの車、得体の知れないギャングたち、全てが映画的記憶につながり、豊かな時空間を生みだしています。西部劇であり、ノワールであり、なにより「映画」なのです。