『アコード・ファイナル』(I.R.ベイ)

有楽町朝日ホールにて。第6回東京フィルメックス・特集上映「映画大国スイス 1920's〜1940's」の1本。大傑作です。これほど充実した作品を観ることができたのですから、どの程度までダグラス・サークが演出したのかといったことはこの際どうでもいいようなものです。遅刻、取り違え、身分の偽装、湖、窓などなどが組み合わさって、70数分の尺の中で無駄なく簡潔に物語が語られることの快感! 「無駄なく」といいながらもタクシーの運転手みたいな魅力的な細部もしっかり備わっています。最初のデートの夜、湖の水で濡らしたハンカチで互いの顔の汚れを拭き合う場面の美しさといったらありません。デートから戻ってきたヒロインが、先に寝ていたルームメイト相手に熱に浮かされたようにして話し続けるシーンもまた実にいいのです。ひさびさに「映画」を観たという満足感で一気に元気になってしまいました。
それにしても残念なのは、せっかくこういう魅力的な特集が組まれているのに結局1本だけしか観られなかったことで、こんなのは映画祭の参加のしかたとして間違っていますよね。やっぱりある程度の量を観た中でこの大傑作に出会いたかったのですが、会社勤めの身にはさすがに無理があるところです。そうとでも思わなければ中川信夫特集を1本も観ることができなかった悔しさに収まりがつきません。(もちろん自業自得なのですが。)