舞城王太郎『山ん中の獅見朋成雄』(講談社)

山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄

聖痕を背負った少年が死の国をめぐったのちに女の子の導きで(あるいは女の子を手に入れて)現世に戻る話。あるいは少年が父親の名前をいったん捨てたのち再び名前を獲得するまでの話。そう言えば『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』も同型の物語なのでした。背中の鬣(たてがみ)やカニバリズムといったキワモノな設定とは裏腹に、古典的な構造を持ったビルドゥングス・ロマンで、しっかりとした構成と舞城文体がうまく噛み合い、読んでいてとても心地よいです。でも『暗闇の中で子供』を読んだものとしては、よくできた小説ではなく、綿密な構築の先の破綻を、どうしても求めてしまうのでした。考えてみれば贅沢な話ですね。