『アメリカ,家族のいる風景』(ヴィム・ヴェンダース)

シネスイッチ銀座にて。とてもいい映画でした。一見ひどく陳腐な物語が反復されているだけに見えるかもしれませんが、『ランド・オブ・プレンティ』同様、ことあるごとに繰り返し脳裏に甦ってくるような美しい場面をいくつも持った作品です。その「美しさ」は、アメリカの原野や街並みがシネスコの画面で映し出されることからだけ来るのではないはずです。ひとりの放埒な男(サム・シェパード)が思いつきで長年会わずにいた母親の元を訪れ、さらに昔の女に会いに行き、その存在すら知らなかった息子と娘に出会い、最後には再び彼らのもとを去って映画の中へと帰っていく、そして残された人びとは彼の唐突な思いつきの移動*1、だらしのないよたよた歩き*2によって、その着実な影響下で、それまでとは別の人生を生き始めることになるのです。
サム・シェパードが別れ際に息子のガブリエル・マンへ車の鍵を放り投げるシーンがあり*3サム・シェパードの父親のものだった車が彼の孫の手に渡る時、サム・シェパードの頭の上のカウボーイハットもまた、息子へと受け継がれます。
ティム・ロスの「探偵」(ヘリコプターから降り立つ姿がカッコイイ!)とエヴァ・マリー・セイントも実にすばらしかった。ジェシカ・ラングエヴァ・マリー・セイントのふたりの母親が息子に注ぐ眼差しには、強く心をうたれました。

*1:まさにノックもせずに、いきなり訪れるのです。

*2:主人公は禁酒の誓いを幾度も破り、足元がおぼつかなくなるほど酒を飲んでしまうような男です。

*3:父親の突然の出現に混乱した息子は、怒りのあまり家具を部屋の窓から次々に投げ捨てるのですが、「投げる」こともまた、このフィルムの重要な主題のひとつかもしれません。