『東京の宿』(小津安二郎)

DVDで。初見。この映画でも帽子は重要な役割を果たしています。坂本武演ずる失業中の男とその息子ふたりは住む家もなく、野犬をつかまえて警察に渡しては40銭もらってその日の食費に充てているのですが、ある晩宿屋でよその少年がかぶっている帽子を眼にした突貫小僧が、その翌日、野犬と引き替えにもらったお金で帽子を買ってしまうのです。その帽子を弟にかぶせたかと思うとすぐに取り上げて自分がもう一度かぶってみたり、友達になった女の子にかぶせてあげたりと、せっかちに子供たちの頭の上を移動する帽子が画面を豊かに息づかせています。
また、この映画の中盤では雨が降ります。子供たちが唯一の財産である風呂敷包みをなくしてしまい(その風呂敷包みをなくす場面がとにかくすばらしいわけですが)、お金が底をついたために野宿するつもりで先にごはんを食べていたら雨が降り始め、坂本武は「こんなことならメシ抜きで宿に泊まればよかった」と後悔し、やることなすことうまくいかない身の不幸を嘆くようにして肩を落とすのですが、この雨が坂本武と飯田蝶子を偶然出会わせることにもなるわけで、ふたりが出会う前、髪結いの家の軒先で寄り添って雨宿りする坂本武親子の姿が、これまた実にいいのでした。